2018.9.7

“グロースハック”はもう古い?シリコンバレーにおける最新の”グロース”動向レポート

グロースハック”。この言葉を聞いて何をイメージするでしょうか。人によっては、それって要はA/Bテストでしょ、とかAARRRのフレームワークなら知っているよ、とか様々な反応があるかと思います。日本でもその”グロースハック”という言葉が、囁かれるようになって数年が経ちましたが、その”グロースハック”が生まれた場所、シリコンバレーにおける起源や最新の”グロースハック “状況について本記事ではレポートしていきます。

目次
1. シリコンバレーで生まれた”グロースハック“とは
2. 誕生から8年。”グロースハック”から”グロース”へ
3. 最新シリコンバレーのグロース動向

1. シリコンバレーで生まれた”グロースハック”とは

日本でも2013年頃からネット業界で目にするようになった”グロースハック”という言葉。これは元々シリコンバレーで生まれた言葉です。まずはその起源を探っていきます。

”グロースハック”の生みの親と呼ばれているのは、ショーン・エリス。Dropboxの最初のマーケターであり、Dropboxのグロースハックを行った彼が、2010年6月26日に彼が投稿したブログで”グロースハッカー”という言葉を使ったのが、その始まりとされています。そのブログはこちら。

Find a Growth Hacker for Your Startup”(訳:あなたのスタートアップに、グロースハッカーを見つけよう)

この記事の中ではグロースハッカーにふさわしい・求める人物像について書かれています。つまり、ショーン・エリスは人材の採用のために、新しく”グロースハッカー”という言葉を作ったのです。

では、なぜ新しく”グロースハッカー”という言葉を作る必要があったのか。

もちろん、よりキャッチー・新しい仕事感を出すことにより採用力を高める必要があった、というのもあるとは思いますが、それ以上に、シリコンバレーを始めとするスタートアップ業界において、従来のマーケティングとは違った要素が多く出てきたために、再定義する必要があったのです。

従来のマーケティングとは異なる”グロースハック”

では、従来のマーケティングと違った要素とは何でしょうか。様々な要素がありますが、より大きく影響しているのは

・「プロダクトがソフトウェアである」

・「プロダクトに関するデータが素早く膨大にとれる」

ということです。

「プロダクトがソフトウェアである」

シリコンバレーでは多くの企業がソフトウェアサービスを扱っています。このソフトウェアの成長には、それまでマーケティングエクセレントカンパニーと呼ばれていたコカ・コーラやP&Gなどの企業が実施していたマーケティングとは異なる手法が欠かせなくなりました。なぜなら、シリコンバレーの多くのスタートアップがもつプロダクト、つまりWebサービスやアプリなどは、インターネットを通じて、即座に改善した状態でユーザーの元に届けることができるからです。一方でボトル詰めされた炭酸ドリンクやシャンプーは改善に一定期間必要ですし、届けた物をこちらの意思で変えることはほぼ不可能です。

「プロダクトに関するデータが素早く膨大にとれる」

さらに、常にインターネットに接続された状態であるWeb・アプリではユーザーがどこから来たのか、どのように行動したのか、誰がどんな物を買ったのかなどをデータで把握することができます。しかも迅速に、かつ、全ユーザーに対して。

この2つの要素を鑑みると、従来のマーケティングとは異なる形で、プロダクトの成長を考える必要が出てきました。それはリアルタイムにユーザーのデータをみながら、ソフトウェアという常時改善可能なプロダクトを、テスト・検証を通して改善していく、ということが必要になったのです。

そして、この”グロースハック”・”グロースハッカー”という言葉は瞬く間に世界中に広がっていきます。

2. 誕生から8年。”グロースハック”から”グロース”へ

そこから8年が経過した今、シリコンバレーで”グロースハック”はどのように語られているのでしょうか。

求人募集やブログ、実際に現地でカンファレンスなどを聞いていると、現在ではより一般的な呼称として”グロース”という言い方をすることが増えてきているように思います。

もともと採用のために作った言葉である”グロースハック”。確かにキャッチーなフレーズではありますが、”ハック”と表現すると、”ライフハック”などと使われるように、物事を効率よくこなしたり、質を上げたりするための、ちょっとしたコツやテクニック、というニュアンスが出てしまいます。

これは確かにアーリーステージのスタートアップのように人材が少ない中で、効率的にプロダクトの成長をしたい場合には、まさに”ハック”という言葉が正しいですが、より広範囲でプロダクトを成長させる、という意味においては、”グロース”という言葉が使われるようになってきました。

実際に、LinkedInなどの求人を見てみると、”Head of Growth”, “VP of Growth”, “Growth Marketing”など、”Growth Hack”(グロースハック)という言葉を使用せずに、プロダクトの成長を担う役職の募集が多くみられます。

3. 最新シリコンバレーのグロース動向

では、”グロース”の分野で扱われているトピックは何でしょうか。

実際に、毎年サンフランシスコで開かれている”Growth Marketing Conference”のトピック一覧をみてみましょう。
参考URL: https://growthmarketingconf.com/

<Growth Marketing Conferenceのテーマ一覧>

このイベントで大きく掲げられているテーマは、3つあります。

1.ユーザー獲得・活性化・継続
グロースにおいて最も重要なユーザーファネル(遷移)に沿った、ユーザー獲得(Acquisition)、ユーザー活性化(Activation)、ユーザー継続(Retention)の具体的な手法・事例を紹介しています。しかし、それに留まらず、グロースチームの作り方やマインドセットなどもテーマに上がっており、単なるグロースマーケティングの手法に留まらない議論をしていることが伺えます。

2.オーガニック・パフォーマンスマーケティング

SEOやコンテンツマーケティングなど、依然として伝統的なオーガニックなグロース手法についてはもちろん、最近のトレンドであるモバイル、ブロックチェーン、GDPR、チャットボット、機械学習など、一見関係ないようにも思えるトピックでも、それに関するグロースが語られています。

3.B2B&エンタープライズグロース
先の2つは、比較的 B2Cのサービスを意識した議論が多いので、別途、B2Bにおけるグロースもテーマとして設けられています。その中で、やはり非常に重要となってくるセールスについてもカバーされており、”グロース”という領域が広範囲になっているのがわかります。

このように実際に扱われているトピックをみてみると、まさに”グロース”が単なるA/Bテストの話だけでなく、プロダクトの成長全体、まさに会社の成長そのものを示しているトピックだということがわかります。

そんな今後の企業成長にとって非常に重要な要因となる”グロース”について、シリコンバレー現地の最新事例も取り上げながら今後も定期的に紹介していきます。

執筆者プロフィール

菊川 航希(きくかわ こうき)

東京大学工学部卒業後、民泊・インバウンド事業の立ち上げに従事したあと、外資系経営コンサルティングファームに入社。アメリカ・フランス・シンガポールオフィスのプロジェクトに参画するなど、海外を中心に幅広いプロジェクトに関わる。

その後、シリコンバレーに移り、プロダクトのグロースやデザインに特化したスタートアッププログラムに参加。現地のスタートアップのグロースコンサルティングを手掛ける。

現在は、サクラス株式会社でパートナーを務めながら、シリコンバレーを拠点としたファンドやスタートアップとプロジェクトを行うなど、様々な事業に参画中。