2018.8.28

「おもてなし幻想」デジタル時代の新しい顧客満足の在り方(第2回/全2回)

前回のコラムでは、ユーザベース「SPEEDA」が顧客の感動を実現しているポイントとそのサービスの裏側にある課題、そして戦略の転換について、同サービスカスタマーサクセス組織の立ち上げを推進している井上氏、宇佐美氏に語っていただきました。今回は戦略の転換による組織上の想定課題と、デジタル時代の新しい顧客満足のありかたについて、リブ・コンサルティングが監修し7月に発売されたばかりの書籍「おもてなし幻想」をテーマに、お聞きしました。

〇井上卓哉
Customer Success Team Managing Director
2000年に大阪市立大学卒業後、経営コンサルティング会社や企業向け研修サービス会社で部門責任者・取締役としてコンサルティング業務や事業開発に従事。2018年にユーザベースに参画し、SPEEDA日本事業においてカスタマーサクセス組織の立ち上げを推進中。

〇宇佐美 信乃
Customer Success Team Manager
2007年に上智大学法学部を卒業後に三菱UFJ信託銀行入社。
大企業のお客様を中心に、信託スキームを用いた財務戦略のアドバイザリー業務等に従事。その後、三井住友銀行を経て2017年にユーザベース・SPEEDA日本事業に参画。コンサルティングサービスチームマネージャーを経て現職。

聞き手
○権田和士
株式会社リブ・コンサルティング 常務取締役
国際公認経営コンサルティング協議会認定 マネジメント・コンサルタント/経営学修士(MBA)
早稲田大学卒業後、大手経営コンサルティング会社に入社。様々な業界のマーケティングコンサルティング、経営戦略コンサルティングに従事。
2008年より4年間、住宅不動産コンサルティング部門の本部長を務めたのち、米国ミシガン大学に留学し経営学修士(MBA)取得。
2014年、リブ・コンサルティングに参画。現在、常務取締役として海外事業及び新規事業を統括している。

「顧客努力の軽減」に向けて、組織として取り組むべき課題とは?

権田
リッツ・カールトンやザッポスを参考にしていることからも今までは情緒サービスを大切にしていたところから、合理サービスにシフトするということでしょうか?ターゲット選定をして、平等なサービスから公平なサービスへと変えることで軋轢が生まれることはないのでしょうか?

宇佐美氏
SPEEDAのコンサルティングサービスチームは一般的なカスタマーサポートとはサービス内容も立ち位置も異なりますが、初めの部分に書かれてあるような「従来の顧客ロイヤルティを高めるアプローチ発想を見直すべきだ」ということは社内でもちょうど話しあっている内容でした。

宇佐美氏
これまでは急増するユーザーからの問い合わせに対して、スピードと幅で満足を超えた感動を届けることに一番重きを置いていました。ですので、対応内容別の機能別にチームを分けていました。そこからユーザーの業種軸のチームに再編し、戦略性をもってユーザーに向き合うようにしました。セグメントや戦略を分けたとしても、サービスの理念は当然に引き継いでいるので、しっかり意見をぶつけ合えれば内部で軋轢が起こることはそこまで問題ではないと思います。若いメンバーが多いのもあり情緒的なものだけにこだわっている人は少なく、サービスの未来を見据えた健全な議論ができています。サービスの未来を信じるこだわりがあるからこそ新しいことに進めると思うので、そのうえでは健全な軋轢なのかなと。

井上氏
以前から弊社のコンサルティングサービスはリッツ・カールトンやザッポスを目指すんだと謳っています。それはリッツ・カールトンやザッポスと同じことをやるということではなく、リッツ・カールトンやザッポスのように突き抜けた基準、こだわり、信念を持ったサービスを創っていくということだと個人的には思っています。なので、その視点で言えば、これからも変えないし、もっと拘っていくべきことだと思っています。カスタマーサクセスとかも同じですが、カスタマーサクセスという言葉に囚われるのではなく、SPEEDAにとってのユーザー価値って何か、競合と比べてどうとかではなく、コンサルティングサービス全体として本当に突き抜けられているか、ということを前提に考えをぶつけ合えば、無駄な軋轢とかは生まれないんじゃないかなと思います。

権田
普通の大企業だとジェネレーションギャップがハードルになると思います。そこをどう乗り越えるかが実際難しいと思っていて、働き方改革を実践しようとしたときにそこでつまずくかと。そこで顧客にきちんと向き合い方を変えられるかどうか?きちんと引き算ができるかどうかですね。御社はどういう意思決定プロセスやチームでこの変化を行おうとしているのですか?

宇佐美氏
「ユーザーの理想から考える」というルールもあり、問題意識をもって手を動かせば必ず議論に乗ってくれるので、組織として誰がどの層にアプローチしていくとかいうことはないですね。我々と同じ問題意識を持っている人が違うポジションで弊社に来てもきっと同じことを実行すると思います。

井上氏
基本的に今のままでよい、と考えている人がとても少ない組織ですし、ユーザーのことを知りたい、ユーザーの理想ってなんだろうって、当たり前に考えている人が多いので、変えることのリスクも含めてオープンに議論し変えていく感じだと思います。

少し話は変わりますが、SPEEDAの初期ユーザーがどうしてプロフェッショナルファームから始まっているかというと、創業者が投資銀行出身だからです。ユーザーだった創業者が持っている問題意識、つまりユーザーの課題と徹底的に向き合い、ユーザーの理想を描きながら形にしてきました。しかし今では事業会社のユーザーも増えてきており、そこに関してはユーザーの理想を描くまで現状が見えていないという問題意識がありました。どんな風にSPEEDAが使われているかよくわからないまま、サービスがどんどん事業会社に広がってきたわけです。そのため、まずはユーザーをよく知ることが大切だと考え、ユーザーヒアリングに取り組んだというわけです。そして、その声をもとに社内で議論し変えていこうとしているので、組織横断的に変えようというコミットはみんなが持てている状態だと思いますね。

権田
「顧客努力の軽減」というのが本書のコンセプトですが、御社は引き算するポイントを絞れているのですか?

井上氏
そうですね。例えば、現在、コンサルティングサービスへの問い合わせの半分がSPEEDAの利用方法に関する内容となっているので、その問い合わせをなくしたいと思っています。利用ガイドの話が来なくなると、本来のコンサルティングに時間がかけられるようになり、よりユーザー価値を高めていけますので。

宇佐美氏
顧客満足度を指標にしていた時期は、「ユーザーからの問い合わせの件数が売り上げと同じだ」という考えていたこともありました。しかしプロダクト・サービスの成長につれてそれは違うな、と思うようになりました。なぜその問い合わせが来るのかに真剣に向き合い、簡単なものはユーザー自身ですぐに解決できるような仕組み作りに力を入れています。

権田
「98%満足度、30分対応、24時間」を自分たちの強みにしていたことがブランドアイデンティティになっているものの、そこがネックになって変えられなくなってしまうということは、日本のいろんなおもてなしに起きていることだと思います。

井上氏
コンサルティングチームでもこれまで10年やってきたことを変える意思決定は大きなことですが、それでも必要だと思ったらみんな前を向いてスピーディに変えていけることは組織としての強さかな、と思います。

権田
組織風土が素晴らしいですね。裁量権がかなり与えられているのでしょうか?

宇佐美氏
裁量権の塊ですね。30分対応というルールや、サービスレベルとしてユーザーの皆さまにお約束していることはあるけれど、それ以外についてはかなり余白を持たせています。そうするとやってみて失敗しつつその中で学びますね、どこまではやりすぎで、コストに見合っていないとか、これでは痒い所に手が届いてないとか。

裁量権を与えてどうかというところですが、工夫が生まれて効率化が生まれるという効果の方が多い気がします。若いメンバーが多く、自分たちが便利なサービスを色々と使っているので、効率が悪いとか使い勝手の悪いものにすごく敏感です。ですので、自動化、効率化できないかという発想は常々あります。そして、発信がみんな好きですね。社内のチャットでも誰が発信しているかではなく内容しか見ないので、発想が良ければコメントがついて、そのアイディアを採り入れてどんどん改善していくという形です。

権田
最後になりますが、デジタル時代の新しい顧客満足のありかたについてはどうでしょうか?

井上氏
データから見えることって大事じゃないですか。オールユーザーの価値を考えると見えているユーザーや自分たちの感覚だけで判断していてはユーザー全体の価値を高めることはできません。それにカスタマーサクセスは事業に携わっている人みんなで実現することなので、その点でも客観的なデータはとても大切になってくると思っています。ただ同時にデータだけに囚われてもいけないなとも考えています。直接向き合っているユーザーから感じること、フロントで直接ユーザーに関わっている人が感じていることも大事にし続けていきたい。人にしかできないことを大事にしながら、データとテクノロジーの力をどう取り込んでいけるかを追求していくことが大切なんじゃないかと。