2018.8.21

「おもてなし幻想」デジタル時代の新しい顧客満足の在り方(第1回/全2回)

顧客満足度98%を誇るコンサルティングサービスチームを持つ企業・業界情報プラットフォーム「SPEEDA」は、変革の過渡期。顧客を感動させるサービスの裏側ではどういった課題があり、何が起きているのでしょうか。ユーザベース「SPEEDA」カスタマーサクセス組織の立ち上げを推進している井上氏と宇佐美氏に、リブ・コンサルティングが監修し7月に発売されたばかりの書籍「おもてなし幻想」をテーマに、お聞きしました。

〇井上卓哉
Customer Success Team Managing Director
2000年に大阪市立大学卒業後、経営コンサルティング会社や企業向け研修サービス会社で部門責任者・取締役としてコンサルティング業務や事業開発に従事。2018年にユーザベースに参画し、SPEEDA日本事業においてカスタマーサクセス組織の立ち上げを推進中。

〇宇佐美 信乃
Customer Success Team Manager
2007年に上智大学法学部を卒業後に三菱UFJ信託銀行入社。
大企業のお客様を中心に、信託スキームを用いた財務戦略のアドバイザリー業務等に従事。その後、三井住友銀行を経て2017年にユーザベース・SPEEDA日本事業に参画。コンサルティングサービスチームマネージャーを経て現職。

聞き手
○権田和士
株式会社リブ・コンサルティング 常務取締役
国際公認経営コンサルティング協議会認定 マネジメント・コンサルタント/経営学修士(MBA)
早稲田大学卒業後、大手経営コンサルティング会社に入社。様々な業界のマーケティングコンサルティング、経営戦略コンサルティングに従事。
2008年より4年間、住宅不動産コンサルティング部門の本部長を務めたのち、米国ミシガン大学に留学し経営学修士(MBA)取得。
2014年、リブ・コンサルティングに参画。現在、常務取締役として海外事業及び新規事業を統括している。

「おもてなし幻想」から見えてくる顧客ロイヤルティの高め方

権田
おもてなし幻想を読了して、全体を通じて面白いと感じられた部分はどんなところでしょうか?

井上氏
SPEEDAのコンサルティングサービスチームは一般的なカスタマーサポートとはサービス内容も立ち位置も異なりますが、初めの部分に書かれてあるような「従来の顧客ロイヤルティを高めるアプローチ発想を見直すべきだ」ということは社内でもちょうど話しあっている内容でした。

宇佐美氏
「感動によってロイヤリティが高まるのではないか?」と思って顧客満足度を目指してみるものの、それがロイヤリティにどれくらい影響するのかについては正直数値としては測定しきれていません。ただの感覚値だったので、「(顧客満足度がロイヤリティに)必ずしも直結しない可能性もある」ということについては共感しました。戦略上の考えに基づかず、感動させること自体が良いという風潮、しかもかなりコストがかかって継続性が無いというのは違うのではないかなと思いました。

権田
サービスについての基本概念であるホッケースティックモデルに則れば、ロイヤリティを上げるには満足度を上げることではなく、大変満足を上げなければならないわけです。大変満足度が上がると顧客ロイヤリティが上がり、社員のエンゲージメントと業績向上へと連鎖することで、CS(顧客満足)とES(従業員満足度)と業績のバランスの良い三角形が確立する。このサービスプロフィットチェーンという考え方は、日本のサービス業が1990年代から目指してきたモデルですが、この定説を覆す可能性も出てきました。

宇佐美氏
SPEEDAのコンサルティングサービスでは、期待値を超えてユーザーを感動させるサービスを打ち出しています。ユーザーが前回お問い合わせされた内容は必ず確認し、それを踏まえた回答をするのは基本中の基本という感じです。

歴史的な背景でいくと、SPEEDAが出来た当初はデータベースの網羅性もそれほど高くない時期もあり、コンサルティングサービスの提供価値がかなり大きかった時期もあったと思います。当初は投資銀行やコンサルティング会社に対して昼夜を問わないサポート体制で、必ず30分で回答、というのをやっていました。現在でもユーザーの期待値はかなり高く、フェルミ推定に近いような難しい質問もありますが、30分という時間内に初期回答をしています。「対応に感動した」「他のサービスとは全く違います」というユーザーからのフィードバックを日々見て、さらに意欲をもってユーザーにとことん寄り添う姿勢がカルチャーとし、顧客満足度は98%まで高まりました。

権田
ライブラリアン(司書)をサービス化しているみたいですね。すると、元々は98%の満足度であるカスタマーサポートがビジネスの根幹になっていたんですね。その中でどんな課題が出てきて、どのように変えていったのでしょうか?

宇佐美氏
顧客満足度が非常に高いのでこれを目標にし続けるのも難しく、何を指標にして成長させていくか悩んでいた感はありました。メンバーのキャリア形成や働き方、プロダクトの成長に合わせたコンサルティングサービスの成長という双方の観点で戦略的に変革していこうということで徐々に体制を作っていきました。

権田
そこは監修者会議の際に神田昌典さんとも実は話していたのですが、「おもてなし幻想」によってもたらされるものは働き方改革だと思います。日本の生産性向上の最後の砦は、顧客面談なり顧客対応のところだと思います。「おもてなし」という言葉を隠れ蓑に、不必要な顧客訪問や電話対応を助長させているように思いますが、CSが錦の御旗になっておりそこにはなかなかメスを入れづらい。そんな中、本書が「顧客対応って引き算できないの?」ということで、働き方改革推進のきっかけになると考えています。貴社ではカスタマーサクセスという観点からCSを見直していくということですが、どういう風に変化や期待が持てそうでしょうか?

宇佐美氏
ユーザーとの一つ一つのやり取りに全力を尽くして「感動しました」というコメントがあっても、発揮している価値や収益貢献は見えにくく、自己満足にもなりやすい。私は漠然と「稼げるCS」にしたいと考えていました。これは発揮している価値をしっかり見える化したい、という意味です。そういったなかで、問い合わせベースでの顧客満足度のみを目指すのではなく、「SPEDDAユーザーのカスタマーサクセス」の実現を目指して体制を変えているところです。お問い合わせいただいた方だけでなく、より幅広いユーザーに価値を届けられるので楽しみです。

井上氏
実際、問い合わせいただいている方はSPEEDAユーザー全体の5〜10%ぐらいで、それだけのユーザーにしかリーチできていないわけです。ただ、その少ない接点自体はとても価値が高いとも認識しています。つい最近ですが、全ユーザーを対象として電話ヒアリングを実施しました。その中で年数回しかコンサルティングサービスを利用しないユーザーであっても、その少ない体験でのインパクトが強く残っている、その結果としてSPEEDAを含めたサービスへの評価が高いユーザーも結構いるんです。当社はこれまで新規でご契約して頂いたユーザーに対してセールスが定期的に訪問するスタイルではなく、SPEEDAを利用している中で何か課題を抱えたり、困った際に弊社に問い合わせを頂く形で価値を提供してきたのですが、改めてこれまでコンサルティングサービスの存在がユーザー価値を支えてきたということを実感しました。ただそれと同時に、コンサルティングサービスやSPEEDAを効果的に活用できていないユーザーがとても多いこともわかり、いろいろ変えていこうとしているわけです。

ただ、今後も対応のスピードやコンサルティングのクオリティを下げるつもりはなくて、むしろ高めていきたいと考えています。一方で問い合わせを頂いたユーザーの期待に応えることだけにフォーカスしすぎて業務を圧迫してしまっていた点などはやめる・減らしていく、つまり引き算していこうとしています。「それは本当にユーザー価値に繋がっているか?」という視点から減らす・やめることにもどんどんチャレンジし、オールユーザーの価値を高めることにフォーカスしていこうと動いています。

さて、ここまではユーザベース「SPEEDA」が顧客の感動を実現しているポイントとそのサービスの裏側にある課題、そして戦略の転換について語っていただきました。次回のコラムでは戦略の転換による組織上の想定課題と、デジタル時代の新しい顧客満足のありかたについて伺います。