2018.7.23

グローバル時代の日本に求められる戦略とリーダーシップ

EXECUTIVE SUMMARY

アップル・ジャパン元社長の山元賢治氏は、日本IBMをはじめ、名だたる外資系企業でリーダーシップを発揮してこられました。 かのスティーブ・ジョブスと共に働いた数少ない日本人でもある山元氏。 「イノベーション」とは何か、日系企業と外資系企業の違い、 そしてグローバル時代に日本企業が求められるものは何かを語っていただきました。

イノベーションは過去からの連続性の中で生まれる


山元さんは、IBM、オラクル、アップルと、我々から見ると「イノベーティブ」な企業で働かれてきていますよね。でも、ご自身の著書の中には「イノベーション」という言葉があまり出てこないのが意外でした。なぜでしょうか?

山元
私は「自分はイノベーターだ」という認識はないんです。私は技術者なので、他人の真似はしたくない。でも私が実際にやってきたことはアメリカの企業でつくられた製品を流通させることだったので、「自分がつくったわけじゃない」という悔しさのようなものがあるのです。ですから、「自分がイノベーションを起こした」とは考えていません。


日本は何でも「イノベーション」という言葉を使いますが、技術のことなのか、販売の形態のことなのかも区別しないで使われています。ここまでくると、単なる「流行語」なのではないかとすら感じられます。

山元
技術者としては、「イノベーション」とは連続性、すなわち過去の技術を継承した中にあると捉えています。アップル社の製品も、何か新しいものがあるわけではなくて、過去に立証されてきたものの組み合わせだと思っています。例えば、他社もiPodと同様の製品をアップルよりもずっと前に開発・販売していたのに、当時はインターネット速度が遅く、1曲ダウンロードするのに30分以上かかったりしたためにうまく広がらなかったという事例もあります。


「連続性」という言葉には、「色々な条件が整って、そのタイミングでなければ生まれないものもある」という意味も含まれているわけですね。

山元
僕個人としては、日本人が成し遂げたイノベーションはソニーのウォークマンくらいしかないと思っています。あとは、インスタントラーメンとトイレのウォシュレットくらいかな(笑)。
僕は技術者なので、「イノベーション」と言うからには、人をびっくりさせたいと思っているんです。そう考えると、この3つ以外は全部、「誰かが持ってきたものを変えただけ」のように感じます。


びっくりさせる、驚かせるという点では、アップル社社内でも色々とサプライズがあったようですね。

山元
スティーブ(・ジョブズ)には各エリアの社長会議の度に驚かされました。iPodを作ったときも、「こんなに良いもの作っちゃって、みんな次は何作る?」と言いながら、彼は次の新製品をしっかり用意していましたから。社長陣一同、「そう来たか!」と(笑)


もともと驚かせるのが好きな人でないとそこまでできないですよね。

山元
シリコンバレーにいる人たちは、みんな「驚かせるのが好きな人」という感じがします。アメリカは投資家の国なので、一般の人も製品を買うだけでなく投資してくれる。だから驚かせる方もやりがいがあるんです。

意思決定できないリーダーは無能


私はこれまでずっと日系企業で働いてきたのですが、山元さんはずっと外資系企業で働かれてきていますよね。外資系はよく「実力勝負の世界」と言われますが、日系企業と外資系企業のリーダーの一番の違いは何だと思われますか?

山元
一番違うのは意思決定のスピードです。そして、自分の発言に対する責任感も違います。


外資系企業では、やはり「意思決定できないことは無能だ」と見なされるのでしょうか?

山元
そもそも意思決定しないリーダーはいないですね。そうでないと、いる必要がありませんので。日本には「稟議書」という仕組みがありますが、稟議書を回すのであれば全員一般職で良いのではと思ってしまいます。稟議書というのは、悪いことがあったとき誰も責任を取らなくてよい仕組みです。日本の場合、あらゆることが「学校的」な制度になっていると思いますね。

ビジネスの「設計図」を持て


これは弱みの裏返しとも言えると思うのですが、日本は物事を慎重に、着実にやっていくのが得意なのでしょうね。外国の企業にとっては、「中間管理職以下に日本人がいてくれると助かる」というのが本音なのでしょう。決めたことをきちんとやってくれるし、細かいところもやってくれる。

山元
そうだと思います。日本人は「WHY」(=なぜやるか)を説明しなくても、「HOW」(=どうやるか)だけ教えてあげればやってくれますから。でも、それで良いのでしょうか。だから経営人材が育たないのではないでしょうか。


一方で、今は「おもてなし」や「ホスピタリティ」が日本の強みだと言われています。この点についてはどう思われますか?

山元
これだけ「おもてなし」と言うようになったのは、製品や技術力などの「中身」に自信がなくなってきたからなのではないでしょうか。例えば、ニューヨークでお寿司とおしぼりを出せば、それは「おもてなし」なのでしょうか?
「おもてなし」で勝負しすぎるとアイデンティティを失います。もてなすということは、相手の言いなりになるということですから。「本当にそれでいいの?」と心配になります。


製品力や技術力を謳えなくなったことによって、「おもてなし」や「ホスピタリティ」といった面を打ち出さざるを得なくなってきているのかもしれないですね。「ホスピタリティ」の次に何を強みにするのだろうと考えると、日本は追い詰められている感じがします。

山元
グローバリゼーションと言われている今、ビジネスのアーキテクチャー(全体設計)をしっかり持つことが必要です。例えば「温泉」は本当に良いものなのでしょうか。もしかしたら、世界と同じモデルに合わせた方が「グローバル」としては良いのかもしれません。
世界に合わせる「グローバリゼーション」と、日本の特徴としての「ローカリゼーション」と、お金をいただいてその人やその層に合わせたものをつくる「カスタマイゼーション」。これらの線引きや割合の設計がきちんと出来ているかが大切だと思います。「日本の人口が減ったから、今度は世界に売っていこう」という発想だけで上手くいくはずがありません。国としてしっかりビジネスを設計して、魅力的な市場になっていく必要があります。

製品戦略で生きていけることが理想


日本としてどういう人や製品やサービスを作っていくのかという設計図や戦略を持たなければいけませんね。ちなみに、シリコンバレーの企業には、「経営戦略を立てる」という概念はどの程度あるのでしょうか。

山元
BtoB企業は「どの業界をどう攻めるか」といった戦略をある程度持っていますが、BtoC企業からは感じにくいです。BtoC企業は基本的には製品戦略があるだけで、製品戦略さえしっかりしていれば「黙っていても売れて当たり前」といった空気を感じます。
マーケティングや販売に関しては、アメリカとイギリスで見えてきた成功例を他の国でも横展開しています。「アメリカでこういう動きが始まった。こういう風に動けば売れるぞ。それ行けー!」といった感じで(笑)、各国支社にアメリカの成功例を押しつけてくる感じです。
改めて考えてみると、製品戦略だけでやっていける企業は幸せです。製品が世の中を変えていくのです。


確かに、製品戦略が企業として理想的な姿だというのは納得ですね。

山元
良い社員も自然と集まってきますし、企業として一番健全なように思います。かつて日本の経済が成長したときもそうだったのではないでしょうか。
しかし、今の日本はそれが出来なくなっているように感じます。日本ではどうしても「HOW」だけを求めがちですが、これからは「どうなりたいか」という「WHY」を持つことが求められると思います。

PROFILE

アップル・ジャパン 元社長
山元 賢治

神戸大学卒業後、日本IBMに入社。
日本オラクル、ケイデンスを経て、EMCジャパン副社長。
2002年、日本オラクルへ復帰。
専務として営業・マーケティング・開発にわたる総勢1600人の責任者となる。
2004年にスティーブ・ジョブズに指名され、アップル・ジャパンの代表取締役社長に就任し、iPodビジネスの立ち上げからiPhoneを市場に送り出すまで、国内の最高責任者としてアップルの復活に大きく貢献。
現在は株式会社コミュニカのCEOとして、「これからの世界」で活躍できるリーダーの育成に力を注いでいる。

株式会社リブ・コンサルティング 代表取締役社長
関 厳

東京大学教育学部卒業後、大手経営コンサルティング会社に入社。
同社史上最年少で取締役就任、2010年専務取締役就任。
リーマンショック後の逆風の中、自身の統括部門を3期連続の増収・増益に導く。
2012年7月リブ・コンサルティングを設立。
「“100年後の世界を良くする会社”を増やす」を理念に掲げ、トップコンサルタントとして幅広い業界のコンサルティング支援に携わる。
コンサルティング活動以外にも多くの業界団体向け講演活動も行っており、年間約5,000名を動員。
昨年11 月出版の書籍「経営戦略としての紹介営業」は、全国の大手書店ビジネス部門にて第1 位を獲得。
同社は「2016年:注目企業33」(経済界)に加え、「働きがいのある会社ランキング」のベスト