2018.7.9

韓国進出に活かすべき日本流ビジネスの現地成功事例

はじめに

昨今の韓国経済に対して明るいイメージを持つビジネスパーソンは少ないかもしれません。
対中関係の悪化をはじめ、財閥依存の経済構造など、マクロ視点での問題は少なからず目立っています。
経済成長予測値においても1990年代、7.4%であった平均成長率が2000年代前半には急落し、現在では2%台となっています。これは局所的あるいは周期的な一時不況ではなく、長期にわたる構造的不況であり、低成長期へと入ったことを意味します。
記憶に新しい韓国の海運最大手、韓進海運の倒産をはじめ、2016年に破産または法定管理手続きを申請した企業数は1,533社にまで登りました。これは史上最多であり、1997年のアジア通貨危機の水準を超えたといわれています。
こうした低成長期において、韓国企業では新たな経営課題に向けた取り組みを始めており、中でも多くの企業が今「日本流の組織づくり」に注目しています。

韓国企業が日本企業の取り組みを学び始めた理由

韓国企業が日本企業の取り組みから学ぼうとする理由は、下記のグラフにあります。

これは、日本と韓国の名目GDP成長率の前後5年移動平均を算出したものです。青いグラフが日本、赤いグラフが韓国の推移を示していますが、赤いグラフは横軸の年代を20年遅らせる形で記載しています。
ここで、二つのグラフは非常に近い軌跡を描いていることが分かります。つまり、日本が「失われた20年」と呼ばれた低成長時代を経験したように、韓国もまた20年遅れの低成長時代を迎えると予想することができます。
日本企業が’’課題先進国’’として実践してきた低成長時代におけるさまざまな取り組みは今、韓国企業が学ぶべき対象となっており、同時にこれから韓国に進出する日本企業にとっても有効な戦略として再認識することができます。

以下に紹介する韓国における日本流ビジネスの成功事例が、これから韓国進出を検討する日本企業にとって、経営戦略の着想のヒントとなればと思います。
低迷する韓国経済にありながら目覚しい業績を挙げる三つの「日本流」ブランドを例に、さまざまな側面でジャパンプレミアムを活かし、韓国で成功を収めた経営戦略について触れていきます。

成功事例1:がってん寿司~日本流ホスピタリティをいかに表現するか

回転寿司チェーンのがってん寿司は、江南(カンナム)、新沙(シンサ)など国内に7店舗(※2018年1月現在)を有します。徹底した従業員教育を行い、日本流ホスピタリティの実現に成功した企業といえます。現地スタッフには、来店時の挨拶や注文など日本語による接客応対を教育し、CS教育や管理者教育、日本現地研修など充実した教育プログラムに取り組んでいます。また、同社独自のスマートマーケティング戦略では、自社サイトや大手ポータルを活用した顧客とのインタラクティブなコミュニケーションモデルを構築し、顧客の声を積極的に取り入れたマーケティング活動に成功しています。
定期的に開催されるマグロの解体ショーは、豪快なパフォーマンスだけでなく、日頃食べられない「ほほ」や「あご」などのマグロの希少部位を食べることができます。派手さと非日常を求める傾向にある韓国人にとって、このようなイベントはCS向上につながる取り組みとなります。

また物流面では、主要食材の産地直取引、高い備蓄在庫率による価格競争力の確保を実現し、二極化が進む韓国の外食寿司業界において、リーズナブルに高品質な商品を提供するポジショニングに成功しました。

成功事例2:デサント~商品現地化によりビジネスが加速

株式会社デサントは、大阪市天王寺区に本社を置くスポーツウェアの専門メーカーです。アディダスの日本国内における販売ライセンスを取得し、売上の約4割を同ブランドに依存していましたが、1998年、28年間続いたアディダスとの契約が終了し、その後、韓国事業拡大に乗り出します。
当初、韓国のデサント商品は日本で企画されたものがほとんどでしたが、現地企画商品の消化率の高さから商品の現地化に比重をシフトしていきます。日本で培われた’’ものづくり力’’をベースに、他社ブランドでは対応しきれない現地ニーズを汲み取った商品企画が緻密に行われ、ラインナップにおける優位性が維持されてきました。また、これを実現するために、同社では’’人財の現地化’’も行われてきました。現在、経営トップから従業員に至るまでほぼ99%以上を韓国人が担当し、現地ニーズに即した経営戦略が取られています。
そして、同社の成功要因には流通の独自性も挙あげることができます。流通をオンライン、オフラインによるリテールのみに絞ることで、価格競争を避け、在庫量をコントロールしながらブランド価値を高めることに成功してきました。
現地化を徹底することで成功した同社ですが、実は現地企画を進める際に日韓のコミュニケーションが非常に活発に行われ、日本のものづくりの高い知見が広く活かされています。現在、グローバル向けの商品は日本で企画されていますが、現地の手本となるような商品企画を行うことで現地との相乗効果が生まれ、その土地のニーズに合致した質の高い商品開発が実現できているのです。

成功事例3:福岡ハンバーグ~日本地名を冠しブランド化

福岡ハンバーグは、2018年1月現在、全国に43店舗を出店する人気ハンバーグチェーンです。実は日本企業ではなく、韓国企業が九州エリアを中心に店舗展開する極味や(きわみや)を参考に、日本流を学び作られた現地発の外食ブランドといわれています。同社にも、日本ブランドが韓国で成功を収めるための参考となる取り組みが多数あります。
福岡ハンバーグの成功は、まずブランドのネーミングにあります。韓国人にとって立地的に渡航経験の多い九州の地名をブランドに冠することでジャパンブランドを演出しました。日本の地名は一つのブランドとして確立しやすく、同じく地名を冠した例として、韓国内に6店舗(※2018年1月現在)を構える「博多とんこつラーメン 美味堂(うまいどう)」があります。こちらも福岡ハンバーグ同様、韓国企業であり本場博多さながらのおいしいラーメンが食べられると評判です。
そして、福岡ハンバーグは「焼きながら食べるスタイル」を提案したことでも韓国の若者の心を捉えました。鉄板には熱々のペレットがのっており、自分好みの焼き加減でハンバーグを食べることができます。日本以上にフォトジェニック文化が浸透している韓国において、焼きながら食べる臨場感はソーシャル対策としても良い結果をもたらしています。
さらに、食文化のローカライズという視点でも「焼きながら食べるスタイル」はポジティブに影響しています。もともと日本と韓国では食感や味覚の好みが全くかけ離れています。例えば、カツ丼チェーンの「かつや」は、日本と韓国でとんかつのカット方法を変えています。韓国では一口サイズが好まれるため、日本の縦長カットではなく、さらに横にカットしたさいの目状が採用されています。
福岡ハンバーグの焼き加減が調整できるペレットスタイルは、単にオペレーション効率化というメリットだけでなく、このような食感や味覚の好みの差に自ずと最適化される提供方法として、顧客に受け入れられているのです。

課題先進国としての経験が韓国で活かされる

低成長期に突入した韓国経済において、日本流を活用した成功事例を紹介してきました。「失われた20年」と呼ばれた日本の低成長期は、見方を変えれば世界に先駆け課題に取り組んできた時代でもあります。この期間、日本企業は「課題先進国」として多くの経験と知恵を経営資産として蓄えてきました。現在、日本の後を追うかのように低迷する韓国経済において、これらの知見は間違いなくジャパンプレミアムとして活かす術があり、韓国進出の追い風として捉えることができるのではないでしょうか。