2018.8.6

人事部門

人事部門の役割

人事部門は、従来から採用、配属、強化、実践、評価、代謝の人財マネジメントサイクルをベースに、主に制度を事業環境に適したものに変え、実行してきた。事業環境の変遷を大局的に捉えると、成長期の国内市場における正社員を中心とした人財に対するマネジメントから、成長期のグローバル化に対応するためのマネジメントへと進化を遂げてきた。

慶慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授の高橋俊介氏は、人事部門の役割を、①いわゆるルーチンのオペレーション業務としての「人事全般」、②賃金構造を見直す、年金倒産を防ぐために確定拠出型に切り替えるなど、行わなければ経営に支障をきたすインフラ人事としての「経営人事」、③競合他社と差別化し、競争優位をどのように確立するのか、戦略に基づいて進める人事としての「戦略人事」、の三つとしている。例えば、話題の女性活躍推進の場合、CSR的な発想から女性管理職の増加を目指すのであれば、「経営人事」である一方、多様化を享受することで組織を活性化し、競争優位を確立すべく、女性を積極的に採用、育成し、各機能(採用、教育、評価、報償など)を最適化するのが、「戦略人事」であるといえる。

『日本の人事部 人事白書2016』によると、「戦略人事は重要であるか」との質問に「強く感じる」(63.7%)「感じる」(31.5%)を合わせて95.2%である。「人事部門が『戦略人事』として活動できているか」との質問に「強く感じる」(5.2%)「感じる」(20.6%)を合わせて25.8%である(図2)。現時点では、求められる姿と実態との間に大きな乖離があり、「戦略人事」の機能は強化途上である。

人財に関わる変遷

戦後の復興期からの社会や事業の環境と人財に関わる制度などの仕組みの変遷を確認したい。

1950年から60年代の高度成長期は、人財不足であった。地方からの若年労働者が都市部へ集団就職し、大卒者を確保するための青田買いなど、人財確保が激化した。新卒一括採用がベースとなり、日本型経営システムの三種の神器と呼ばれる終身雇用、年功序列制、企業内組合が導入された。終身雇用は安心面、年功序列は金銭面、企業内組合は経営者との交渉面など、組織に長期間所属することへの魅力を醸成した。

1970年から90年のバブル期は、勤続年数により一律に賃金が上がる「年功序列」では公平な人事評価が困難になり、日本固有の等級制度である「職能資格制度」を導入した。保有能力を等級で分類、社員を格付けし、昇進・昇格、給与などを決める制度であり、賃金体系の基本は年功序列で、等級ごとの差を反映する形であった。年功序列と比較すると、評価の納得性やモチベーションが向上し、効果的に機能した。

1980年代後半、バブル景気では大卒が売り手市場となり、再び労働力の需要が大きくなった。人財確保が経営課題となり、社員にとって魅力のある人事制度、職能資格制度、終身雇用が深く浸透した。

1990年以降、バブル崩壊後は「失われたxx年」と呼ばれ、経営の効率化を迫られ、人事面でも給与体系、人事制度そのものが見直された。高い業績を上げる人財に経営資源を集中し、リストラ・早期退職制度・選抜人事など余剰人員を削減するアメリカ型成果主義を導入する企業が増えた。加えて、インターネットなどIT技術が進歩し、従来、人が行っていた業務をIT化したことで、より人員や組織の合理化が進んだ。この時期、企業に人財を育成する余力がなくなり、即戦力の中途採用が普及し始めた。成果を上げる人財の行動や特性を分析・研究し、優秀な人財を育成しようとする「コンピテンシー」の考え方が浸透した。数値目標で管理するアメリカ型の成果主義は日本では定着しなかった。

その後、国際的な企業間競争の激化、生産拠点や資材調達先の海外移転の進展など、グローバル化が加速した。少子高齢化による国内市場の縮小が顕在化し、社員の価値観も多様化した。日本型経営システムの三種の神器であった終身雇用、年功序列、企業内組合は、変化した環境において必ずしも有効的な仕組みではなくなった。

人事部門に関する環境対応の実態

当社は2017年2月に、219社の企業に対して組織開発・人財開発に関する意識調査を実施した。調査によると、環境変化に対応した戦略、組織体制、人財に関する一貫性がすべて取れていると回答しているのは11.6%のみであり、環境適応における何らかの課題を抱えている事が分かった(図3)。また、人財マネジメントサイクルという観点では、組織人事、評価制度、育成、採用のいずれの機能においても「適切でない」「あまり適切でない」で半数以上が占められていた(図4)。組織・人財における環境適応にはまだ相応の時間が求められるようだ。

一貫性の検証

環境、戦略、組織、人財の一貫性は、当初構築した時点で担保されている。構築後に発生するさまざまな変化に対して、対応の遅れや対応の漏れなどにより、一貫性の欠如として顕在化する。事業と人財マネジメントサイクルの変遷から一貫性を検証するとともに、今後の事象を予測する。

事業の変遷を、戦後の復興期、高度成長期、バブルの崩壊までの90年代までを「第1期」、90年代以降から現在までを「第2期」、今後を「第3期」の三つに分類する。第1期、第2期は過去であり、第3期は未来である。

第1期は、事業が成長期にあり、人財も豊富であった。組織は、その前提で事業の生産性向上を目的に構築された。既存事業のオペレーションを強化すべく、効率性向上などの改善活動が継続的に実施された。オペレーション自体の変化は少なく、経験値が有効であった。経験を重視した人財マネジメントサイクルが構築され、実行された。環境、戦略、組織、人財の一貫性が担保され、ハイ・パフォーマンスを実現した。

第2期は、成長期に加え、成熟期を迎える事業も登場した。事業のライフサイクルは、技術の進歩や途上国の発展によるグローバル化により、短期化した。新たな事業への進化が必要となった。バブル崩壊後に、日本型経営に対する見直しが発生し、人事関連でもアメリカ型の制度が試行されるなど、さまざまな企業の仕組みが混乱した。企業と人財の需給バランスに大きな変化はなかったが、戦略・組織、人財の間にずれが発生し、パフォーマンスが低下した。

第3期は、今後のことである。人財環境は、大きな変化が予測される。少子高齢化に伴い、労働人口は減少し、企業と人財の需給バランスが逆転し、人財が企業成長の制約条件となる。既存の組織構成では事業の維持、発展が困難になり、組織と人財の間にずれが発生する潜在的な要因がある。

現時点で取り組むべき項目

取り組むべき項目は、現時点で一貫性における強化項目と、今後想定される事象に対する準備項目の二つである。

現時点で一貫性における強化項目は、事業のライフサイクルの短期化、成熟期を迎える事業の進化に対する組織の強化である。従来からコスト削減を実施し、既存事業以外の部分をそぎ落としてきた企業や、組織が事業のオペレーション組織だけで構成されている企業が該当する。既存事業への依存が高く、新たな事業の創出や変革人財の育成、利活用に対する対応が遅れがちである。戦略を遂行すべく、組織、人財を最適化することが有効である。

今後想定される事象に対する準備項目は、人財主導の事業発展の構造を構築することである。現在の事業は、人財の量が制約条件ではなく、正規社員をベースに、補完的な役割としてパートなどの非正規社員を活用した構成で設計されている。少子高齢化で労働力人口が減少する一方、アクティブ・シニアや介護などで時間的制約のある優秀な人財など、働き方が多様化した人財が増加し、労働力に関する状況が変化する。少子高齢化によって制約となった人財に関して、労働力人口に含まれない人財を前提に事業の構造を最適化することが有効である。

人事部門の新たな役割

経営資源は、ヒト、モノ、カネ、情報で表現される。昨今の環境の変化を鑑みると、特に、ヒト、情報の利活用がますます重要になる。人事部門や情報戦略部門は、より事業戦略と密に連携を取ることが求められる。

人事部門は、「戦略人事」への幅出しといわれるように、人事管理を超えて、より経営視点からも役割を担うことが望まれている。「CHROは経営者たれ」(HBR 2015年12月号)では、経営視点からの役割を、①結果の予測、②問題の原因究明、③事業価値の向上につながる施策の指示、としている。その詳細を紹介する。

結果の予測については、中期経営計画、年次計画において、人事分野の知識をもとに予算目標の達成可能性を見極めることとしている。例えば、主力チームやリーダーが外部環境の急変に時機を逃がさず対応できているか、主な業績指標、人財配置、予算が望ましい成果を上げる上で適切なものか、に問題意識を持ち、必要なら新しい指標を提案する、などである。

問題の原因究明については、組織の成果が上がらない原因、目標を下回っている原因のほとんどが人に起因するとしている。例えば、数字の裏にある人々の仕事の仕方、協働の仕方にも目を向ける。ボトルネックや不必要な摩擦を生み出す活動がないか注意を払い、関連し合う部署や人財の仕事の仕方を専門的な立場から分析する、などである。

事業価値の向上につながる施策の指示については、人財の価値を引き出したり創造したりする取り組みを推奨できるよう、準備することが求められる。例えば、事業機会が見込まれる分野に対し、人的資本を柔軟に配置転換する、などである。

まとめ

「戦略人事」を高橋氏の「競合他社と差別化し、競争優位をどのように確立するのか、戦略に基づいて進める人事」と紹介した。人事部門は、一貫性の面から、①既存の役割において、現時点で顕在化している課題に対する強化、②既存の役割において、将来を予測した上で、準備すべき事前対応、がある。加えて、戦略人事への幅出しとして、③経営を人財視点から、結果の予測、問題の原因究明、事業価値の向上につながる施策の指示についての対応、の役割が期待されている。