2018.8.21

カーディーラー業界におけるM&A戦略~2030年にエリアで勝ち残る成長戦略~

「モビリティ産業の夜明け」

日本の自動車産業が大きく変貌を遂げようとしています。それは、「100年に一度の大変革期」とも呼ばれ、毎日自動車産業関連のニュースには事欠きません。

テクノロジーの進化・発展に伴い、従来の自動車の価値源泉だったハードウェアはソフトウェアへと価値源泉のシフトが起こっています。自動車業界のトレンドである「CASE」、つまりConnected(コネクティッド化)、Autonomous(自動運転化)、Shared(共有化)、Electrification(電動化)という大きな流れの中で、デジタル化が進み、自動車とソフトウェア・IOTの双方が関わる領域が、異業種企業にとって魅力度が高まってきています。

テスラモータースやダイソンに始まる新興EVメーカーの出現。また、DeNA、GMOといった国内IT関連企業による自動車関連の新たなシェアリングサービスのリリースが相次いでおります。

従来の自動車を「所有」することを前提にした産業構造から、「利用」や「稼働」という概念を加え、「移動」という枠組みでサービスを捉えた「モビリティサービス」を提供する新たなプレイヤーが続々と自動車産業へ参入し、産業構造に大きな変化をもたらそうとしています。

そのような産業構造変革期の中で、ディーラーにおけるビジネスモデルは転換期を迎えています。顧客に自動車というハードウェアのみの提供だけではなく、「移動」という枠組みでサービス提供する「総合モビリティ企業」へと変革が求められています。

例えば、移動手段を陸だけではなく船や、ドローンにより海や空に広げたり、エリアの交通機関や公共交通機関との組み合わせでサービスを展開するような地域創生を念頭に、エリアでリーダーシップを取る成長戦略を抜本的に描きなおすタイミングが来ているのです。

その際に、企業が取り得る方向性として、M&Aによる再編が注目を集めています。M&Aとは何であるのか?その全体像を整理してまいります。

「モビリティ産業へのシフトを視野に活発化するディーラー再編」

自動車ディーラーが、「チャネル軸」から「地域軸」の営業体制へシフトしています。環境変化に加え、顧客視点に立った観点でもM&Aによる構造改革が加速しています。

トヨタ自動車は従来の「チャネル軸」から「地域軸」主体へと体制を見直し、最近では東京の直営ディーラー4社を2019年4月に統合することを発表しました。これによって、個社単位では難しかった店舗網の再構築や、窓口の一本化による法人販売の強化、車の利活用のモビリティサービスの立ち上げに乗り出しました。チャネルを越えた販売店の統合は、全国の地場資本各グループの戦略にも影響を与え、業界全体としてM&Aはさらに加速していくでしょう。

また、「後継者問題」を解決する有効な手法として、M&Aのニーズが高まったことも加速要因の一つです。成長戦略としてのM&Aを行うことにより、win-winとなる会社との協業で相互に発展することが可能であり、また、長期的に社員の雇用を保証することもできます。こうしたことから、後継者問題に悩んでいる会社にとってはM&Aはまさに最適な解決策となり得るのです。

このように、自動車業界は大きく変わろうとしています。この100年に一度の大変革期をピンチと捉えるか、チャンスと捉えるか。見方次第で描ける戦略は大いに変わってきます。従来とは異なる価値を求められていく中で、新たな進化を遂げていくための成長戦略としてのM&Aは、企業・顧客双方にとってメリットのある有効な手段です。ここからは、M&Aを成功に導くポイントについて見ていきたいと思います。

「成功確率は全体の4割弱のM&A」

デロイトトーマツコンサルティングの調査によると、2000年以降にM&Aを実施した経験のある企業のうち、当初のM&A目標を達成したと答えた割合は全体の4割弱にとどまっており、M&A成功は容易ではないことを示しています。

有名な失敗例では、東芝によるウェスチングハウス買収や日本板硝子によるピルキントン買収などがあります。買収当初は注目を集めて一時的に成功したように見えたものの、買収後の統合がうまくいかずに結果として大きな損失を出すことになってしまいました。

「成功させる鍵となるのは何か?」

上記事例からもわかるように、M&Aの成否を分ける大きな要因として、買収後の統合、すなわち「PMI」があります。PMI(Post Merger Integration)とは、M&A成立後の統合プロセスのことです。M&Aが成立しても、その後の統合がうまくいかないと、一つの企業体としてパフォーマンスを発揮することが難しく、思うような成果にはつながりません。

一般的に、PMIは以下の3段階で行われ、何をどういう順番で、いつまでにどこまで統合するかを決定して遂行していきます。

(1)経営統合(理念や戦略、マネジメント手法の統合)
(2)業務統合(業務管理システムや人財・組織・インフラの統合)
(3)意識統合(企業風土や組織文化の統合)

自動車ディーラーにおけるPMIの場合、特に「業務統合」(人事、店舗の統廃合)の最適化が最も重要となります。

異なる企業間の人事制度(評価制度)をいかに統合させるか?店舗オペレーションをいかに統合して生産性を最大化するか?あるいは店舗統廃合をどういう形で最適化させてエリアシェアを最大化させるか?という設計をM&A検討段階から行い、M&A成立とともに業務統合を迅速に行っていくことで、社員の意欲や能力を引き出し、統合による効果を最大化していくことが可能となるのです。

「M&Aによる事業拡大を成功させるアプローチ」

M&Aによって事業拡大を成功させるには、以下のアプローチが有効と考えられます。最も重要なことは自動車ディーラー業界に関する知見を集約し、PMIを含めたM&Aの戦略策定を行うことです。

1.M&Aによる成長戦略の策定
M&Aによる経営多角化、ビジネスモデルの転換など、長期的な成長戦略を策定します。

2.案件発掘
成長戦略に最適なターゲット企業を発掘します。

3.買収対象企業のビジネス・デューデリジェンス
買収対象企業の事業動向や競争優位性等を多面的に分析し、買収対象企業の将来性、買収の適否、バリューアップおよびシナジー効果、買収価格の妥当性を明確化します。

4.PMIの立案
買収後の新しい組織体制の下で、企業価値の向上と長期的成長を支えるマネジメントの仕組みを立案します。

A)人事制度(評価制度)の統合
買収後の最適な人事制度(評価制度)を策定し、従業員の適正評価およびモチベーションアップ策を検討します。
B)店舗オペレーションの統合
顧客対応などのマニュアルや業務フロー、コスト構造を見直して企業体全体として統合し、収益の最大化を図ります。
C) 組織文化・風土の統合
企業の理念・ビジョン、価値観等の整合性を取り、方向性を統一します。

まとめ

自動車ディーラー業界は今後さらに競争を増し、厳しさを増していくことが予想されます。しかし、この状況を機会(チャンス)と捉え、M&Aによる事業拡大・ビジネスモデルの転換を積極的に図っていくことで、地域のお客様により貢献できる価値提供が実現できます。ただし、M&Aにはリスクも伴います。買収後の統合をしっかりと見据えて戦略策定していくことが重要ですので、企業統合のプロセスについても検討することが必要でしょう。