2018.8.20

小売り再建のプロフェッショナルが考える企業変革の真髄とは

「基本徹底」と「変化対応」が変革の原点

コンサルタントとして、経営者として数々の小売り再建を実現されましたが、変革者としてのご自身のルーツはどこにあるとお考えですか。

イトーヨーカ堂時代、伊藤雅俊さん(現・セブン&アイホールディングス名誉会長)、鈴木敏文さん(現・セブン&アイホールディングス名誉顧問)の経営を目の当たりにしたことが原点だと思います。お二方のもとで二十代を過ごし、育てていただいたことは、私にとって本当に幸運でした。伊藤さんからは「基本徹底」を、鈴木さんからは「変化対応」という考え方を徹底的に学びました。

伊藤さんは、目先のことや表面的なことではなく、お客様に信用していただくかが何よりも大事で、それを実現するのは現場だという信念がありました。「とにかくお客様だ、現場だ」「現場の役に立つことをしなさい」と会うたびに言われました。私もとにかく現場に行き、そこで「基本徹底」という考え方をしっかりと身につけました。

また、鈴木さんの変化への対応は強烈な記憶として残っています。初めて同社が減益したときの役員会のときでした。減益の原因は、冷夏や規制の強化というのが一般的な認識でしたが、鈴木さんだけが「おかしい。時代が変わってきた。高度成長期が終わって、店を作って商品を並べておけばどんどん儲かるという時代ではなくなったのだ。構造改革が必要だ」と話されたのです。また、「減益はチャンスだ。経営改革にぴったりだ」とも話されたのです。「経営者ってすごいな。こうやって経営改革をするのか」と感銘を受けたことを今でも覚えています。お二方から教わった「基本徹底」と「変化対応」は、今でも変革の原点です。

小売業界のトップランナーであるお二人によって、今の大久保様があるのですね。お二人の薫陶を受ける以前に、変革者としての兆しはあったのでしょうか。

いえ、兆しといえるものはなかったです。ぼーっとしていて何にも考えていないような子どもでした。社長になりたいという漠然とした夢はあったのですが、そのための努力はしていませんでした。大学でもまったく勉強しなかったので成績が悪く、就職活動では志望する会社を落ちてばかりでした。そんな中、イトーヨーカ堂からようやく内定をいただき、入社しました。

最初は小売りに興味があったわけではありませんが、すぐにのめり込みました。「こうやったら売れるんじゃないか」といろいろ工夫していたら実際に売れましたし、若くして売り場を任され、自分の責任で何でもできることが楽しかったです。

一方、焦りもありました。「社長になりたいという夢があるのに、このままでは一生が終わってしまう」。でも何をしたらいいか分からず、「本をひたすら読む」くらいしか思いつきませんでした。まず、本箱と大量の本を買ってきました。売り場の数字は絶対に落としたくなかったので、早朝から深夜まで働く生活は変えずに、夜中にひたすら本を読むことを始めました。夜中に寝ないよう、立ちながら読むこともありました。

入社2年目の時、グループ全体の経営戦略を担当する部署が新設されることになり、現場から人を呼ぼうとなって、私も候補者の中に入りました。上司の面接を受けた際に、「何か本を読んでいますか?」と聞かれ、「こんな本、あんな本を読みました」と、読んでいた本の中身をダダダと話したのです。そうしたらビックリされてしまって。スーパーの店員でそんなに勉強している人、普通はいないですから。読書の習慣がきっかけとなり、伊藤さんと鈴木さんの直下で経営改革の事務局として働くことになりました。そこから年弱、業界でも有名なヨーカ堂グループの大変革をこの目で見てきたことは私の財産です。「小売りを一生の仕事にしよう」と、心に決めました。

売り場をつくる「人」が「企業価値」を生む

その後は、コンサルタントとして業界変革に携わっていらっしゃいます。小売業界の変革とは具体的にはどのようなことをされるのでしょうか。

方向性として、「小売りがいかにして価値を生むのか」ということです。メーカーの販売代理ではなく、最もお客様に近い小売りがお客様のニーズを見つけて、原材料、製造業者、物流方法、在庫管理まですべての流れにおいて主導権を取り、在庫リスクも抱えながら、売り切ることで価値を生み出すということです。

イトーヨーカ堂の業務改革は、多くの企業で真似されていますが、間違いが散見されます。彼らは在庫削減して、アイテムを絞っていますが、本当はまったく逆なのです。売れ筋を大きく売り場に出すから、在庫が少なくなり、死に筋をカットするから、アイテム数が減っているのです。

また、伊藤さんと鈴木さんの「基本徹底」と「変化対応」も順番が大事です。まずは「基本徹底」によって当たり前のことができるようになることが重要です。基本は挨拶なのですが、それができるようになるからこそ、本部の指示がしっかりと実行できる足腰の強い会社になれるのです。基本が徹底できるようになると、じわじわと業績は上がりますが、その後にPDCAによる仮説検証を繰り返し、「変化対応」ができると、一気に業績が上がります。

ユニクロでも良品計画でも、その変革の考え方や手順は同じです。ユニクロが落ち込んだときに、提案の機会がありました。私は同社の今までの成功パターンを全否定して、変革プランを提示しました。柳井さんはすべて聞き終わってからおっしゃいました。「大久保さんの言う通りです。会社をつくり変えたいので、すべてやってください」。その後、柳井さんは変革プランをどんどん実現されて、一気にV字回復を遂げられました。すごい経営者だと思いました。

ドラッグイレブンや成城石井では、経営者として変革を実現されましたが、経営者になってから、ご自身に変化はありましたか。

「基本の徹底」と「変化への対応」がより一層重要だと思うようになりました。それに加えて、「変えるべきは人だ」ということを実感しました。現場での実行度が変革には欠かせませんが、実行するのは現場の一人ひとりなのです。そこで人から言われた「やらされ事」だと、実行度が下がってしまいます。自分で考えてやろうとした事は実行度が高いですが、それだと組織の力は出ません。なので、方針はぶれずに明確にして、きちんと説明しますが、それ以外はすべて任せます。情報共有は求めますが、それを私が承認することで、失敗は私の責任になります。そうすることで、「思い切ってやってほしい」と背中を押すことにつながります。

変革が求められる中で、人を信じて待つというのは我慢が求められると思います。その信念はどこから生まれるのですか。

これは、私の個性だと思います。鈴木さんとも伊藤さんとも、柳井さんとも異なるアプローチだと思います。私も挫折ばっかりで、そんなにいつもうまくいきませんでした。それなりに皆頑張っているけど、うまくいかずに悩んでいるのだと思います。そのうちにだんだんできるようになってくるのです。ですから信じて待つしかないと思います。それが自然に身に付いた私の考え方です。ギャーギャー言ってやらせても、2〜3ヵ月でやらなくなっちゃいますからね。

また、通常ファンドが企業再生をするときには、いろいろな分野から人を集めて押しかけるのですが、私はドラッグイレブンも成城石井も一人で行きました。店も社員もそのままです。

しかし、同じ人たちが、気持ちが変われば行動が変わり、今まで赤字だった会社が黒字になるのです。その変化を目の当たりにすることで、自信は確信に変わりました。

根本的な改革を推進されると時間も掛かります。変革には短期的な成果を求められることもありますが、ジレンマはありましたか?

私は社長を引き受けるとき、いつもこう言います。「短期的には利益を上げません」「経費削減しません」「まず人を育てます」「方針は出すけど、具体策は現場で考えてもらいます」「教育のためにお金をたくさん使うので、しばらく減益するかもしれません」と。

短期的で表面的な、経費削減やリストラで1年くらいで数字が変わったとしても、必ずその後業績が落ちる。ダメになる会社は、そういうことを繰り返していることが多い。ファンドから「企業価値」について問われることがありますが、私は小売りの場合の企業価値とは、「売り場」だと主張しています。

お客様に喜んでもらうことで利益が上がり、売り場の価値、企業価値が上がる。売り場をつくっているのは、商品を開発し、売り込み方を考える“人”です。“人”が売り場の価値、企業価値を生むのです。ですから、私はそのために必要なお金はたくさん使います。私は今でも現場をよく回っていますが、そこで確認するのは社員の顔色だけです。店に行って指示することはまったくありません。売り場をつくる現場のスタッフの気持ちを変える、行動を変える、それ以外に企業価値を上げる術はないと思っています。

最後に、変革のリーダーの条件や共通点について伺います。ご自身に当てはめてみると、どんな特徴があるでしょうか。

誰もやっていないことや、苦しいことにチャレンジすることに、やる気が出ます。苦しいから全然ダメとか、失敗が恐いなどはまったく思いません。そういうことに面白さを感じるので、逆に状況が良くなっていくと怠けてしまうタイプです。

ですから私は、業績が良くなってうまくいくと会社を辞め、次へ移っていきます。そういう性格からか、引っ越しもこれまでに15回していますし、例えばレストランでおいしい店を見つけてもそこに通ったりしません。もっと違う良い店があるだろうと、次に行ってしまいます。「変化や逆境を楽しむ」「より良いものを探求する」そんな考え方が変革のリーダーの特徴として挙げられるかもしれません。

今回は、インテグラル佐山様からのご紹介で本インタビューが実現できました。次号にご登場いただける、大久保様が尊敬される変革リーダーをご紹介いただけますか?

良品計画の名誉顧問、松井さんをご紹介します。小売業はブームや勢いで成長することがありますが、仕組みができていないと成長が続きません。彼は、表面的な変化や短期の改革ではなく、仕組みそのものをつくり、会社を変えていきました。そしてフットワークも軽く、いろいろな人に会いに行き、話を聞き、経営に取り入れる面白い方です。そういう姿勢も素晴らしい、魅力的な「変革のリーダー」だと思います。

 

PROFILE

株式会社セブン&アイ・フードシステムズ 代表取締役社長
大久保 恒夫

1979年、早稲田大学法学部卒業後、(株)イトーヨーカ堂に入社。
81年に経営政策室・経営開発部に異動し、同社の業革の一躍を担う。
89年退社。
コンサルタントに転身し、90年に(株)リテイルサイエンスを設立。ユニクロや無印良品の業務改革に携わった実績を買われ、(株)ドラッグイレブン社長(2003年)、(株)成城石井社長(07年)に就任し、経営再建を実現。
11年より現職。