2019.3.13

日系企業がアジア進出検討時に見落とす最も重要な現地評価項目とは?

今や日系中小企業の間でもグローバル展開が進み、アジア進出は避けて通れないほど重要な課題となっています。国内でも多くのアジア進出セミナーが開催され、インターネット上では進出のためのノウハウや成功事例が盛んに取り上げられています。

実際に、現地調査や現地企業との提携、子会社の設立などに乗り出す企業も続々と現れ、新たなフロンティアに期待する経営幹部も増えてきています。一方で、進出には市場ニーズの変化、現地文化との共生、現地組織のマネジメントなど、多くの面で想定外の展開に撤退を余儀なくされる企業もあとを絶ちません。

アジア進出に成功する企業と失敗する企業の違いはどこにあるのでしょうか?進出を検討する際に、まず大きな分岐点となるのが、どの国・地域に進出するかという問題です。ここでは、東アジア(中国・韓国・台湾)を中心に日系企業のアジア進出サポートを行ってきた筆者が、進出先の評価項目を4つの領域に分類することで、これまで多くの企業が見落としてきた失敗因子について述べていきます。

市場規模や所得水準など現地のマーケット調査だけでは不十分

これまでアジア進出を検討する際に、最も注意深く評価されてきた項目は、自社商品の現地ニーズの有無や現地文化や生活と自社商品の相性など、いわゆるマーケット環境ばかりでした。

しかしながら、これらは進出を目指す企業が検討すべき事項のわずか一部に過ぎず、多くの企業が残りの領域をあまりにも軽視し過ぎてきたのです。下の図を見て下さい。

企業が検討すべき項目は、このとおり4つの領域に分類することができます。まず定量的なものと定性的なものに分類し、さらに各々に自社の外部環境と内部環境に分けることができます。現地ニーズを把握するというのは、①の検討領域に入ります。現在の市場規模はどうか、将来性はあるか、さらには、現地の所得水準調査やGDP伸び率などもここに分類されます。

それから、現地文化や生活スタイルと自社商品の相性を評価することは②に分類されます。現地住民の生活の流れの中に、自社商品が入り込む余地はあるか、常識や宗教的慣習に適合するか等がそうです。また企業としての事業展開のスピード感なども含め、自社のビジネスが現地商習慣に合致するか、政治動向や法規制を受け入れられる姿勢があるか、これらも外部環境の数値化できない情報として、定性的に検討する領域②に属します。先述の通り、①②の領域に関しては、多くの企業がこれまで充分に検討してきたように思われます。

しかしながら、図の左側半分にある自社の内部環境に関する検討項目が蔑ろにされているケースがしばしば見られるのです。現地の市場環境に関しては充分な調査を実施している企業が、いざ進出となり現地組織を作ったとたん、人材・組織マネジメントの領域で苦戦し始めるのです。

進出成功の明暗を分ける現地組織マネジメントの鉄則とは?

進出が軌道に乗らず、頭を抱える企業の多くが、現地の組織マネジメントに悩まされます。これはアジア進出企業の共通課題と言っても過言ではありません。③の領域で示すのは現地従業員の給与査定、福利厚生制度、昇進の可能性、学習の機会、企業ブランド価値の高さなど、定量的なものです。

こういった領域について、自社は現地企業や他の外資系企業に比べ、いかに優位性を保てるかということを進出事前に冷静に評価しておく必要があります。さらに強く言いたいことは、仮に③の領域で競争優位であったとしても、④の領域が疎かな企業は現地組織マネジメントにおいて、かなり苦戦を強いられる傾向にあるという事実です。

④の領域に示す検討事項とは、現地ビジネスパーソンのキャリアや働き方に対する価値観やモチベーションの源泉を把握した上で、それに合わせた社内制度や職場環境、人材配置を徹底することができるかという点です。

給与や待遇などと同等かそれ以上に、企業の理念やビジョンに強い共感性をもとめる国もあります。また、日本人か否かということを超え、国籍や人種の多様性を受容する企業としての姿勢が、現地組織マネジメントの鍵となる場合もあります。

容赦なく起きる現地組織マネジメントの失敗例(中国)

企業を取り巻く外部環境に気をとられ、社内環境の現地最適化が後回しになってしまうことは、極めて危険です。ここに最も分かりやすい事例として、中国進出を取り上げたいと思います。

中国進出において、③の領域でまず整備すべきは、現地社員の社内キャリアパスの明確化です。中国の場合、国民性として現地社員は、将来的にどのポジションまで昇進できるか、そこに到達するためにはどのような実績が必要か、具体的基準が明確であることを求める傾向にあります。社内で現実的なキャリアパスが描けることが現地社員のモチベーションを向上させます。

しかしながら、多くの日系企業の場合、董事長(会長)及び総経理(社長)を日本から派遣、あるいは本社兼務として日本人を置くことが多く、これは中国人ローカル社員にとって全くよく映りません。

「中国人社員ではトップを務めることのできない会社なのだ」と捉えられてしまうのです。実際にこのような采配をとる日系企業では、現地社員が若手の教育に無関心であったり、自身の業務に壁を作り「これは社長の仕事であって自分の仕事ではない」というような行動を取られてしまうなど、組織内連携がうまくいかないケースがよくあります。

対策としては、現地社員をトップに据えることを前提とし、どういう実績を作りどの程度のマネジメント能力を身につければ、どういった役職につくことができるのかという具体的キャリアパスをオープンに、相応の待遇を与えるということが重要です。

「個」が強い中国人社員は、そうすることで自身のスキルアップや昇進に注力し、自然と良い意味での競争が社内で生まれてくるのです。

次に④の領域についても具体例を出したいと思います。よく誤解されがちなことで、最近の中国人には愛国心がないと言われますが、これは全く逆です。非常に強い愛国心をもち、中国人はいかなる場合も中国を侮辱する相手を許すことはありません。

時折、日系企業の幹部で「中国は嫌いだが、ビジネスが大きいから仕方なく携わっている」という方がいらっしゃいます。その方は意識せずとも、発言や行動にそのスタンスが出てしまいます。当たり前ですが、そのような態度はすぐに現地社員に伝わります。このような幹部を置く企業はやはり上手くいきません。

対策としては、もちろんですが真に中国文化に興味があり、学ぶ意識の高い日本人を派遣し育成する必要があります。事前に現地文化や慣習をきっちり学び、派遣される本人が日本的なビジネスとの違いを充分理解しておくことが重要です。先日報道されたドルチェ&ガッバーナ社の一件も、現地へのリスペクトの有無が問われた問題であったと言えるのではないでしょうか。

アジア進出検討時に企業が熟慮すべき評価項目は、これまで4つの領域のうち、企業の外部環境を評価する2つのみに焦点が当てられがちでした。しかしながら、いざ進出直後のタイミングで多くの企業が現地の組織マネジメントに悩まされます。市場規模や所得水準、現地文化と自社商品の相性を評価すると同時に、現地組織を作った際に企業としてどこまで現地社員のことを理解し、リスペクトし、最適な組織作りをしていけるかが進出成功の重要なファクターなのです。

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